Web系企業は天国なのか?~未経験から自社開発エンジニアへ転職した人の末路

※特定を避けるため、フェイクを入れています。

未経験から自社開発企業に転職したA君の話

飲食店企業で正社員として働いている20代後半のA君は漠然とした不安を抱えていました。

A「ずっと働いているけど、この仕事はスキルもつかないし、将来どうなるか不安だな……給料も低いし……」

新型コロナウィルスによる緊急事態宣言下では、正社員にも関わらず自宅待機を命じられ、給料をカットされてしまいました。

A「このまま飲食をずっとやっていていいんだろうか……」

休業中のある日、A君はネット記事で『未経験からエンジニアになろう!』という言葉を見かけます。
その記事にはエンジニアの働き方が説明されていました。

A「リモートワーク、フレックスタイムかぁ。今の仕事じゃ絶対無理だな笑」
A「年収も高いなあ。やっぱりITって儲かるんだなー」

A君はプログラミングに興味を持ち、本格的に転職のことを考えるようになりました。

A「なるほど……『エンジニアでも、SI業界は最悪。転職するならWeb系企業一択。駆け出しエンジニアはSIerに入らないように気を付けよう』か。よくわからないけどこのWeb系ってのに入ればいいんだな」

A君はWebサービス企業に転職を決意します。
善は急げ。さっそく転職エージェントに申し込みました。

A「エンジニアになりたいです。あと、Web系企業に絞って応募したいです」
エージェント「承知しました。未経験可のWebサービス企業ですね。Aさんはまだお若いのでやる気をアピールすれば十分いけると思います!」

一ヶ月後、A君は見事企業向けアプリケーションサービスの開発企業の内定をもらいました。

A「年収は今よりちょっと少ないくらいだけど、研修もしっかりやってくれるみたいだし、何よりフルフレックスだし。未経験からの転職先としては上々かな。これで僕もWeb系エンジニアだ!」

A君は嬉しくなって、〇witterでつぶやきます。

「SIerの人は大変だね、スーツ着て笑」
「フレックス勤務もできない会社はIT企業を名乗らないでほしい」

そうこうしているうちに、入社日が来ました。
渋谷駅から徒歩5分の綺麗なビル。
オフィスカジュアルに身を包んだA君が指定された部屋に入ると、二人の男性が座っていました。

A「本日よりお世話になるAです! よろしくお願いします!」
B「Bです。よろしくお願いします」

一人は説明担当の社員Bさん。
もう一人はA君と同じく今日入社するCさんといい、A君より少し年上でした。
簡単な自己紹介を交わしたところ、Cさんはプログラミング経験者だそうです。

C「未経験からエンジニアになるなんてすごいね。頑張ってね」

Cさんから励まされたこともあり、A君は一層やる気がわいてきました。
ガイダンスが終わると、Cさんは開発ルームへ移動しました。今日から開発チームに入るそうです。
A君はそのまま部屋に残り、Bさんから追加の説明を受けます。

B「A君は未経験ということだから、とりあえず3ヶ月間ここで研修だね。後ろの本棚にある本は好きに読んでいいから、わからないところがあったら僕にチャット送ってね。じゃ、あとはよろしく」
A「え……」

プログラミングスクールのような研修を想像していたA君は困惑しましたが、Bさんは部屋から出て行ってしまいました。
部屋に一人残されたA君。
とりあえず本棚にあった『プロを目指す人のためのRuby入門』という本を開いてみましたが、全く理解ができません。
隣にある『リーダブルコード』も読んでみましたが、こちらはなんだか抽象的でわかったようなわからないような感じです。

A「どうしよう……」

次の日、A君は思い切ってBさんへ相談をしました。
自分のレベルはBさんが思っているよりおそらく低いこと。
研修を独力でできないので、何か指示がほしいこと。
神経質そうに指をトントンさせながら聞いていたBさんは、ため息をつきながら言いました。

B「わかった。でも僕らも忙しいからつきっきりで教えられるわけじゃないんだよね。開発ルームで実際に業務を見てもらいながらOJTっていう形にしようか」
A「ありがとうございます」

しかし、このOJTもA君にとっては有用なものとはなりませんでした。
Bさん達が何をやってるかすらわからなかったのです。
初めのうちは『これは何をやっているのですか?』と質問してみたりもしましたが、だんだんBさん達がイライラしてきているように思えたのでやめました。

これではいけないと思ったA君は家でも必死に勉強しました。
プログラミング学習サイトを周回し、初心者向け書籍のコードを写経しました。
しかし次の日にBさんが書いているコードを見ると、学んだこととあまりに違いすぎているように見えるのです。
結局、3ヶ月のOJTが終わってもA君は開発に参加できるレベルに達しませんでした。
A君は会社へ行くのが憂鬱になり、元気がなくなってきました。

B「A君、申し訳ないんだけどこの画面のUI直してくれる?」

明らかに憔悴していくA君を見かねたのか、BさんがA君にもできる簡単なタスクを与えてくれました。
指示に従ってHTMLを修正し、レイアウトを微調整するだけのものでした。

A「わかりました! 任せて下さい!」

しかしそれでもここ3ヶ月で自信を失っていたA君にとってはやりがいのある仕事でした。
多少元気を取り戻したA君を見て、BさんはA君に同じような難易度のタスクを与えるようになります。

B「A君さぁ、ユーザー向けのドキュメント作ってくれる?」
B「テストお願いしていいかな。仕様書は作っといたから」

そのうち、Bさんを見た周囲の社員もA君に簡単なタスクばかりを任せるようになりました。
A君は必死に勉強したスキルが生かせないことに少しモヤモヤしましたが、他にできることもないので引き受けるしかありません。

OJTが終わって1ヶ月が経つ頃には、A君の毎日は非常に忙しくなっていました。
タスクはロースキルではあるものの、数の多さゆえに時間が足りなくなり、残業が当たり前のようになり、ストレスとプレッシャーに押しつぶされそうになっていました。
家に帰るとすぐ床に入る生活になり、購入した技術書を開くこともなくなっていきました。

そんな生活が半年以上続いたため、A君は成長の機会を求めてBさんに相談してみました。

A「Bさん、そろそろ開発の仕事もやってみたいんですが……」
B「あー、その内ね。それより頼んでたテスト終わった?」
A「あっいえ、Cさんから頼まれていたデータ入力の分量が多くて……」
B「はあ。早めにお願いね」
A「はい、すみません……」

A君は複雑な心境でした。
学んだスキルを活かし、より高度な業務に関わりたいという思いが日に日に強くなっていきました。

入社から1年が経つ頃、A君は限界を感じて退職しました。
Webサービス企業での夢を追い求めた日々は厳しい現実によって崩れ去りました。

A君は別のWeb系企業への転職を考えましたが、転職活動は難航しました。
必ず面接で離職理由を聞かれ、それにうまく答えることができないのです。
低い給料から書籍代を捻出していたこともあり、少なかった貯金はみるみる減っていきました。

結局、A君は飲食業界へ戻ることになりました。
今は店長として毎日深夜まで店に立っています。

あの時買い集めたプログラミングの本は部屋の片隅で埃をかぶっているそうです。

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